"平均値ではなく、価値あるハズレ値を作る"

AIが「作る」を担う時代、デザイナーに求められるのは「判断」と「署名」——舵を切った理由と、譲れない信念

村越 陽平
代表取締役 CEO
村越 陽平
Profile

2007年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。同年、株式会社博報堂入社。11年間アートディレクターとしてマス広告制作に従事したのち、2018年、株式会社SEESAWの代表取締役に就任。2026年、株式会社Relicにグループインし、同社のCDO就任。2025年より杉野服飾大学 非常勤講師を兼任。
受賞歴:ACC グランプリ/SABRE AWARDS ゴールド/SPIKES ASIA シルバー/CANNES LIONS ブロンズ/ADFEST ブロンズ/CODE AWARDS グッドプロダクト&サービス賞/朝日広告賞 シルバー/PR AWARD GRAND PRIX シルバー など国内外の受賞多数。

なぜ今、SEESAWとしてAI×デザインに舵を切ろうと決めたのですか?

「世の中がそう変わったからそれに合わせた」というシンプルな理由です。一般的にデザインの仕事は、これまで工程の大半が「作る」でした。その作る部分の原価が、今ものすごい勢いでゼロに近づいている。ただ、デザインそのものが消えるわけではなく、期待される価値がより上流の「判断」や、これで世の中に出して問題ないという「署名」に変わっていくということだと思っています。

これはSEESAWが元々デザインコンサルティング会社と銘打っていることと実は大きな乖離はなく、デザインの「作業者」ではなく「判断者」として価値を発揮していくことがより重要になっているのだと捉えています。自社の元々持っている価値によりフォーカスしようとした時に、AI化していくことは必然だったとも思います。

デザイナー・アートディレクターとしてキャリアを積んできた中で、AI時代になっても変わらないと思っている自分の信念は何ですか?

「平均値ではなく、価値あるハズレ値を作る」ということ。ハズレ値という言葉はAI時代になってから以前よりよく聞くようになりましたが、クリエイティブの世界はもともとそうでした。中庸なものを作れる人はたくさんいて、クリエイターはその人たちの想像を超えるものを出すのが仕事です。AIによって平均点を取れる人が爆発的に増えたので、ハズレ値を作れる人間の価値は以前よりも上がるのではないかと思います。

ちなみに、頭に「価値ある」とついているところがポイントで、ただ突飛なものを考えれば良いというわけではありません。一見すると不正解に見えるものに、ストーリーや合理性を与えて正解に変える。そういったコンテキストを見つけられる力というものが、今後ますます重要になってくると思っています。

AIシフトを進める中で、正直まだ迷っている、あるいは難しいと感じていることはありますか?

若手の育成です。ここはまだ正解を持っていません。デザイナーは手を動かしながら覚えていく側面が強い職能です。手を動かすというのは、実は判断の連続でもある。この線を1ミリ動かすか、この色にするか、を何万回も繰り返す中で判断が鍛えられ、デザイナーは育っていきます。

これからの時代は、手を動かす部分が機械に移って、判断の回数によって判断そのものを鍛えていく。そんな世界になっていくのだと思います。その結果として、若い世代が判断数をとてつもない速度で回して上の世代を凌駕していく可能性もありますし、一方で、手を通した判断の積み重ねがないと本当の判断力には行き着かない可能性もある。ここに明確な答えが見つかるには、SEESAWだけではなく多くのデザイン会社でも、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。

今このタイミングでSEESAWに来る意味・魅力は何だと思いますか?

今まで通りのクリエイティブのやり方を貫き通す、という会社も当然ある中で、SEESAWははっきりAIフレンドリーな道に舵を切っています。なので、AI時代のクリエイターがどう動いて、どう考えるべきなのかを学びやすい環境になってきていると思います。AIを前提に動けるADやCDは、市場を探してもまだ多くありません。外から採ってくることが難しい、ということは、中にいる人間が最初の世代になるということです。

逆に、手を動かす作業だけを練習していたい人には合わない方向に進んでいると思います。判断の量がそのまま成長になる場所なので、そこを面白がれるかどうかだと思います。

SEESAWは5年後、10年後、どんな会社になっていたいと思いますか?

ここは変わらないです。ミッションは「デザインが社会や経済を牽引する世界を創る。」、ビジョンは「デザインの力で、ビジネスを産む。育てる。」。AI時代になったからといって、これを変える必要はないと思っています。

むしろ、AIによって足りない能力を補完できるようになったことで、デザインの人間がビジネスの側まで引っ張っていける世界に、実際になってきている。もともと掲げてきたミッションとビジョンが、より体現しやすい世界になってきた、という感覚です。

AI時代に、クリエイティブ領域で価値を持ち続けるためには、何が必要だと思いますか?

今までの話のまとめになりますが、以下の3つだと思っています。

① 平均値ではなく価値あるハズレ値を作ること
② 判断の回数によって判断そのものを鍛えていくこと
③ 責任を持って世に出していいと署名できること

これらは、ただ単にデザインというものを近視眼的に追っているだけでは到達できません。ハズレ値を作ることも、判断を行うことも、責任ある署名も、その土台にあるのはクライアントが営む生業や技術への深い洞察力です。デザインの周辺にある「Business」や「Technology」に目を向け理解することで、「Creativity」自体も磨かれていく。BTCのCに揺るぎない専門性を持ちながら、領域を横断する広い視野と柔軟性を持つこと。それこそが、AI時代を生き抜くために必要な「しなやかさ」だと思っています。

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