2023 09.21
OMORI SANNO BREWERY

CLIENT INTERVIEW 02 魅力的なパッケージデザインとは?

インタビュー

はじめに

ー現在運営されているサービスの概要を教えてください。

町田:大森山王ブルワリーでは東京・大森の歴史の掘り下げを行い、未来へのメッセージを含めて落とし込んだクラフトビールを作っています。地域の人たちや住んでいる人たちに、大森がどんな町か知ってもらうきっかけになればいいなと思い、大森という地域の発展を目指して始めたビール事業です。

ーなぜSEESAWにお願いしたのですか。

町田:大森山王ブルワリーを始めるにあたって、パッケージデザインをただデザイナーに発注するのではなく、ブランディングから深掘って作っていかないと、と思い村越さんに相談しました。また、SEESAWの今までの実績なども知っていましたし、アートデレクションだけではなくクリエイティブディレクションまでできる人にお願いしたかったというのも大きいです。

パッケージデザインについて

ークライアントの要望に対してどのようなコンセプトでデザインをしましたか?

村越:最初はブランドの言語化から始めました。町田さんは大森らしさをすごく大事にしていたので、大森の世界観や何を目指してやっていくのかなどをヒアリングして、キーワードとして出てきたハイカラという言葉に注目していきました。ハイカラは辞書に「西洋風をまねたり、流行を追ったり、新しがったりすること」と記されていました。大森山王ブルワリーとしては、日本らしさを感じさせつつ現代であるという意味合いでハイカラという言葉を解釈し、「古き大森の良さを活かしつつ、新しいものを発信するハイカラビール」としてコンセプトを定義しました。

コンセプト階層

ーNAOMI GEORGEについて

町田:NAOMIとGEORGEは谷崎潤一郎の「痴人の愛」という作品がテーマで、登場人物のナオミと譲治をモチーフに作ってもらいました。この作品の舞台が大森で、当時は大森という街は現代でいう下北沢のような街だったのでハイカラ感を要望として出しました。

NAOMIとGEORGのパッケージとブックカバー

村越:ご要望をいただいた後のプロセスとしては、まず「痴人の愛」を読んでテーマや象徴にできそうなモチーフを探しました。ナオミは、作中でその妖艶さを椿のようだとたとえられていました。譲治は、ナオミに馬乗りされて隷属するシーンが有名です。そこからヒントを得て、ナオミのパッケージには椿、譲治のパッケージには馬をモチーフとして取り入れながら、大森山王ブルワリーが考えるハイカラ感に沿うようにデザインしていきました。

ーKAORUについて

町田:次に作ったのがKAORUというビールです。文化「薫る」町、海風「香る」町、また大森は井上馨の別荘地でもあったためKAORUという名前にしました。

KAORUのポスター

村越:大森は駅から海が見えるところがあって、昔は汽車も走っていたというお話を聞いたので、車窓から風にのって海の匂いが香ってくるような表現にしました。

町田:あと、ハイカラな町って洋館とか家の窓がみんな違って、その窓から個性が出ていたんです。その当時の様子が表現されていて、文化が薫ってる感じが出てますよね。

ーYOUについて

町田:YOUはコロナが大変だった時期に作ったビールで、「主役はあなた」というメッセージを込めて作りました。

YOUのパッケージ

村越:YOUは年末限定のシーズナリティなビールとして出しますとお伺いしていて、今回は大森の町と関係なく「来年のあなたはどうしたい」みたいなことを問いかけるビールにしたいとオリエンを受けました。その時、町田さんから余白の中に何か書き込んだり考える余地があるデザインにしたいというお話があったので、商品名であるYOUはエンボスにして目立たなくし、パッケージには大胆に白をレイアウトしました。そうすることでただ余白がパッケージに載っているだけに見える不思議さや違和感の演出を狙ったデザインを考案しました。

町田:シーズナリティなビールの予定でしたが評判が良く、現在も販売を続けています。シンプルですがビジュアルの印象も強く、お客様にデザインが好きだと言っていただけることが多い商品です。

ーCHIYOについて

町田:CHIYOは、大森というとまず最初に出てくる「馬込文士村(※1)」の礎を築いたと言われる宇野千代さんをイメージして作ったビールです。宇野千代さんは生涯で5人結婚していて「恋多き女性」と言われていましたが、僕はそれよりも光を見つける天才だったのでは?というところから「光」をテーマにお願いしました。また、千代という言葉には大変長い年月という意味があるので「時間」もテーマとして採用しました。

※1:東京都大田区山王、馬込、中央一帯(JR大森駅から西側の地域)に、大正末期から昭和初期(当時は東京府荏原郡入新井村、馬込村)に多くの文士、芸術家が関東大震災後に移り住み、互いの家を行き来し交流を深めていました。いつしかこの辺りを「馬込文士村」と呼ぶようになりました。

CHIYOのポスター

村越:まず「時間」というテーマから年輪をキービジュアルにしようと思いました。さまざまな時間が積み重なって紡がれた人生はきっと彩り豊かに輝いているはず。そんなコンセプトから「カラフルに光る年輪」に見える特殊な箔押し印刷の手法を用いてデザインをしました。

SEESAWの仕事のしかたについて

ー様々なビールに携わって、SEESAWらしさを発揮した部分はありましたか?

村越:このプロジェクトでは20代前半の若いデザイナーたちをあえてアサインしていました。自分がディレクションをしつつ若手に自由な発想でデザイン作業に取り組んでもらうことで、山王ビールが求める伝統的な良さと今っぽいフレッシュな表現をうまく融合させることができたのではないかと思います。

左が「AN」、右が「SAKU」

村越:また、NAOMIとGEORGEについてはPENTAWARDという海外のデザイン賞を受賞することもできました。アワードで評価されるものを若手スタッフでチームを組んでも、ちゃんと生み出すことができるノウハウを持っているのは組織としての強みだと思います。

最後に

ー最後に全体を通して感じたことがあれば教えてください。

村越:今回、山王ビールの制作を振り返って感じることは、ブランディングを成功させるには「無形の価値」を経営者が信じて投資できるかが非常に重要であるということです。
ブランドに蓄積されるイメージはまさにその「無形の価値」の1つで、正確に数字で測ることは困難です。そのため、多くの経営者は数値化できないから投資はできないという判断に至ります。
一方で、多くの顧客はブランドを頼りに商品を選んでいるのも紛れもない事実です。
ブランドイメージとは、数値化できない「無形の価値」に勇気を持って投資した会社だけが手にすることができる特権だと言っても良いでしょう。
町田さんの商品群は、デザインやそこに込められたメッセージを通して山王ビールらしさを積み重ねてきたからこそ、強いブランドイメージという「無形の価値」を獲得しつつあるのだと思います。若手デザイナーたちにとっても良い成功体験になったのではないかと思います。

町田:大森山王ブルワリーを始めた頃はコロナ禍だったので、それに合わせていろいろなことを検討しました。生活の中でビールを飲むにいく機会が減っている中で、わざわざ手に取ってもらうためにはどうしたらいいか。ビールをただ飲むこと以外の楽しみをどう作るか。というところで、やっぱりデザインってすごく大事だと思いますし、こういう「無形の価値」を作り続けるのは大事なのかもしれないですね。今後もこだわってやっていけるといいなと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。SEESAWではブランド戦略の立案からビジュアルの最終的なアウトプットまで一貫してご提供しております。自社の商品やサービスのブランディングだけでなく、ワークショップなどを交えたコーポレートブランディングなども対応が可能ですので、ぜひご相談ください。

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